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東京地方裁判所 昭和31年(レ)401号 判決 1957年2月11日

事実

控訴人岩城発条工業株式会社は、控訴人が被控訴人主張の約束手形を振り出した事実及び右手形が被控訴人主張の日に支払場所に支払を求めるため呈示されたことは認めるが、本件手形は控訴人が訴外磯村大助に手形割引の方法により資金入手方を依頼し、右依頼のため本件手形を作成して磯村に交付したものであるところ、磯村は右手形を他より割引いて貰い、資金を獲得したに拘らず、その資金を控訴人に引渡さないのであるが、被控訴人は本件手形を取得するに当り右の事情を知つていたものであるから、控訴人は被控訴人の本訴請求に応ずる義務はないと述べた。

被控訴人横浜信用金庫は、控訴人が訴外松田時男に宛て振り出した約束手形を松田より訴外鷲尾嘉雄を経て順次裏書により譲渡を受け、現に右手形の所持人であるが、満期日に支払場所に呈示して支払を拒絶されたので右手形金及びこれに対する年六分の利息の支払を求めると述べ、更に控訴人主張の抗弁事実中控訴人が本件手形を割引方依頼のため振り出し右依頼のため訴外磯村大助に交付したこと、磯村は右依頼により他から本件手形の割引を受けながら、その割引により得た資金を依頼者である控訴人に引渡さないとの事実は不知、右事情を知つて被控訴人が本件手形を取得したとの点は否認すると述べた。

理由

控訴人の抗弁について調べてみるに、控訴人は手形割引の方法による資金入手方を訴外磯村大助に依頼し、その依頼のため本件各手形を作成して磯村に交付し、磯村はその交付を受けた手形につき他より割引を受けて資金を獲得したというのであるが、手形割引というのは、通常手形金額より、割引を受ける日から満期までの歩合による利息を控除した残額に相当する金員を割引者より手形所持人に交付し、同時に割引者は手形の所持人よりその手形を取得することをいうのであるから、手形所持人が手形を交付して割引による資金の入手方を依頼したときは、資金入手と同時に手形譲渡の手続一切を依頼を受けた者に委任したものといわなければならない。しかも控訴人の主張によれば、磯村は前示依頼により、他より手形割引を受け資金を入手したというのであるから、手形は割引者の取得するところとなつたもので、磯村がその入手した資金を控訴人に引渡すと否とを問わず、控訴人は爾後手形の取得者に対し、磯村の資金引渡未了を理由として手形金の請求を拒み得ない筋合なのである。控訴人は手形法第十七条により磯村に対する理由を以て被控訴人に対抗しようとしているようにも考えられるけれども、磯村はすでに述べたところによつて明らかなように、手形の譲渡については控訴人の代理人と目すべきもので、前示法条にいわゆる手形所持人に対する手形上の前者には該当しないのであるから、同法条を適用すべき場合でもない。従つて控訴人の抗弁はそれ自体理由のないものである。

してみれば控訴人に対し本件手形金とこれに対する年六分の利息の支払を求める被控訴人の請求は正当であり、これと同趣旨に出た原判決は相当であるとして、本件控訴はこれを棄却した。

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